友人からのメールで「この本は必読だ」との推薦を受け、坂口孝則著の「買い負ける日本」を手に取りました。
かつて、水産物で中国に負けた「買い負け」の話はよく耳にしましたが、今やそれは半導体から牛肉まで、さまざまな分野に広がっています。
この本を読むと、「なぜ日本は30年も衰退しているのか?」という長年の疑問の答えが明らかになります。
日本企業が安価で独自のペースで購入を続け、高品質を求める姿勢が逆に足かせとなっているのです。
過去の栄光にしがみつくあまり、今、日本企業はどこへ向かっているのでしょうか?
この本にインスパイアされ、この記事を書きました。
参考「買い負ける日本 著者坂口孝則 (幻冬舎新書)」 https://amzn.asia/d/a9poLVj
日本の消費者市場の変化
かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。
しかし現在、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著になっています。
その原因は、日本企業は、買価が安く、購買量が少なく、スピードも遅いのに、過剰に高品質を要求することです。
過去の成功体験を引きずるうちに、日本企業は客にするメリットのない存在になったようです。
なぜ日本は負けるのか?
本書には、他にも日本が負ける理由の記述がありましたが、個人的に、以下の2つの理由が特に気になりました。
「杓子定規」な考え方
日本の「杓子定規」のような行動と考え方です。
震災時にプレハブの仮設住宅を建設する際、釘の色の違いを理由に、体育館で待機している被災者がいるにも関わらず、釘の交換を行わなかった。
参考:「なぜ日本は買い負けるのか?」
この話を聞いた日本人なら誰しもこれと同じような事例が頭に思い浮かんで来ますよね。
個人的にも、この「杓子定規な考え方をする人とそうではない人のギャップ」が大きくなっているように感じます。
NATOな考え方の日本人
第二の理由として、海外のコンサルタントから「日本人はNATO (Not Action Talk Only)で行動力がない」との評価があることです。
これは、日本人が話す(おしゃべり)ことは得意でも、実際の行動に移すことが難しいという印象を海外では持っています。
中国のとある企業が、「視察に日本からたくさん来るがビジネスに繋がらない」という話も本書では紹介されています。
本記事とは関係ないですが独立を考えているなら参考になるかもです。
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どんなモノが買い負けているのか?
次に、具体的に「どんなモノで買い負けているのか?」を見て行きますよう。
半導体シェアは1/8
1980年代は世界シェア50%を誇っていましたが2021年は6%まで落ち込んでいます。
さらに、SamsungやTSMCなどの韓国や台湾の企業に技術や生産量で追い越され、特にメモリチップの分野での競争力喪失は顕著です。
木材不足でも国土の2/3は山林
日本の木造住宅の需要に対して国内の木材供給が追いつかず、カナダやロシアからの輸入に依存する状況が続いています。
日本は、国土の2/3が山林なのになぜ輸入に頼らなければならないのか?
日本の山林の問題点としては
- 日本の山林は急峻な地形が多く
- 伐採や輸送が難しい地域が多い
- 過去の過度な伐採による森林の荒廃
- 適切な森林管理が行われていない
外国産の木材が安く手に入るため、国内産の木材の価格との競争が厳しくなっています。
もし戦争などで輸入ができなくなったら、日本はどうするのでしょうか。
この点に関して、現在の日本の危機管理の対応能力には疑問があります。
衰退する日本の造船業
日本の造船業はHyundai Heavy IndustriesやChina State Shipbuilding Corporationなどの韓国や中国の造船所に市場を奪われ、特に大型コンテナ船やLNG船の受注競争での敗北が続いています。
参考:造船業の現状と課題
LNG調達、日本の綱渡りの現状
2021年度、我が国の電気事業者の発電量を見ると、火力発電が全体の78.9%を占め、その中心となるのがLNGです。
しかし、日本政府の方針はこの流れとは逆行しているように感じます。
2021年に発表された2030年度の電源構成の基本計画では、LNGの発電比率を2019年度の37%から2030年には20%へと大幅に削減する方向性を示しています。
この政策の影響で、国際的に「日本はLNGを求めない」という印象が強まり、2021年には中国にLNGの輸入量で追い越されるという、いわゆる「日本の買い負け」の状況が加速してしまいました。
さらに、ロシアのウクライナへの介入やLNGの価格高騰、供給源の多様化が進まない現状など、安定したLNG供給に向けた課題が山積しています。
食料自給力の低下
食料自給率の低下に伴い、海外からの食料輸入が増加。特に、米や小麦などの主食の輸入依存度が高まっています。
日本の「買い負け」の背後にはこのように深刻な問題が潜んでいます。古い考え方や国際競争の変化が、今後の日本の挑戦となるでしょう。この課題を乗り越える戦略が求められています。
日本はアジアで一番多いフードロス大国
しかし、一番の理由は、「日本の消費者の嗜好性」にあるのと、本書を読んで思いが強くなりました。
例えば、多くの日本人は、見た目が不完全な野菜や果物を敬遠する傾向があります。
虫食いの跡や虫がついている野菜は特に避けられるます。
この見た目がいい食べ物を作るために農薬や合成着色料などを使っています。
こうした食品に対するムリ・ムダ・ムラがフードロスにつながらい悪循環に陥っています。
日本の一人当たりのフードロスはアジアの中ではワースト第1位という数字からも分かります。
スーパーマーケットでの商品の並べ方や、食品の安全性への関心が諸外国と比べると異常に強い。
この消費者のニーズを満たすために賞味期限や食品廃棄などをより厳格になり、このような考えた方が日本がグローバルマーケットでの競争において「買い負け」する背景の一因となっています。
参考:通産省「食品ロスの現状を知る」
どうしたら買い負けないのか?
- 「親方日の丸の護送船団方式」を捨てる
- 「昭和の成功体験」をキッパリと捨てる
- 「商社依存」のビジネスモデルを捨てる
「買い負けない」ために手っ取り早い方法が断捨離「捨てる」ことです。
「親方日の丸の護送船団方式」を捨てる
「護送船団方式」は、全ての企業が同じ方向に進む経営スタイルで、高度経済成長期には効果的でした。
しかし、現代の多様なビジネス環境では、この方式は企業の独自性や競争力を損ないます。
企業は、自らの強みや市場のニーズに応じて独自の方向を定める必要があります。
「昭和の成功体験」をキッパリと捨てる
「昭和の時代の成功体験」は、多くの日本企業の経営哲学の基盤となっています。
しかし、過去の成功を過度に頼りにすることは、新しいチャンスや変化に対応する能力を低下させます。
企業は、過去の成功を参考にしつつも、現在と未来の市場環境に合わせた戦略を考える必要があります。
「商社依存」のビジネスモデルを捨てる
長らく日本の企業は、商社を通じての取引が主流でしたが、直接取引やデジタルプラットフォームを活用することで、より迅速かつ効率的なビジネスが可能になります。
企業は、商社に依存せず、多様な取引方法を模索し、最適なビジネスモデルを構築する必要があります。
「買い負けない」ための鍵は「捨てる」こと。伝統的な「護送船団方式」や「昭和の成功体験」、そして「商社依存」のビジネスモデルは、現代のビジネス環境に合わせて見直す必要がある。企業は過去の成功から学びつつ、現在と未来の市場環境に適応する柔軟性を持つべきです。
日本の「買い負け」を解決する方法は?
日本の「買い負け」の原因は、古い経営スタイルや過去の成功へのこだわり、商社中心のビジネスモデルにあります。
著者はこの問題を解決する12の戦略を提案しています。ここで、その中から特に注目すべきポイントをいくつか紹介します。
品質よりも価値を売る
著者が以前講演で触れたテスラの「ドックモード」は、単なる車の機能を超えた価値を提供しています。
この機能は、車内にペットを残して外出する際に、車内の空調をペットに適した温度に調整し、外部のディスプレイに「飼い主がすぐに戻ります」というメッセージを表示するものです。
こうしたユニークで遊び心のある機能が、消費者にとっての真の価値となり、単なる原価や品質だけではない魅力を持っています。
全員野球から即断即決への転換
著者が紹介する中国企業との取引を経験したマネジャーの言葉によれば、日本企業の「買い負け」の背後には、日本の生産や調達の量の減少があるとのこと。
そして、魅力的な商品の提供が難しい場合、迅速な判断、すなわち「即断即決」が求められると彼は語っています。
海外交渉の場で、日本人が「お持ち帰って検討します」と言うのはよくあること。
だが、交渉前に相手の動きを予測し、交渉金額の範囲を設定しないのはなぜだろう。
事前に「目標価格」や「許容価格」を明確にして、その中での交渉が必要だ。
遅れた決断は、商品の確保を困難にする。
なぜなら、相手の営業担当者は自分の判断で即座に行動し、商品を提供してくるからだ。
日本企業の交渉を長引かせる習慣は、責任を逃れるための言い訳のようにも見える。
「会議をするなら、仕入れ先との交渉戦略に焦点を当てるべきだ」とする、彼の主張に心から同意します。
人材の流動化と節税の新提案
日本の伝統的な企業風土では、長く勤めるほど退職金で手厚く扱われるのが一般的。
その結果、多くの人が定年まで同じ会社に留まる選択をしています。
また、税制上のメリットもあって、勤続年数に応じて退職金の税金が軽減されるのです。
しかし、著者はこうした優遇措置を見直すことで、人材の流動性が向上すると考えています。
メモ
政府が「骨太の方針2023」の中で「退職所得課税制度」の見直しを提案しています。現行制度では、勤続年数が長いほど退職所得控除額が増加するが、この制度の変更により、長く勤めてもその優遇がなくなる可能性が指摘されています。(R5.8/12追記)
さらに、転職者に対する税制の優遇、例えば転職後数年間の所得税を一時的に免除するなどの提案もしています。
これは、転職を迷っている人たちに新しい選択肢を示すものです。
そして、学び続ける社会人をサポートする税制改革も提言しています。
現行の制度では、例えばMBAの取得が職務に直結すると会社が認めた場合に限り、税控除が受けられます。
しかし、実際にはその証明を会社からもらうのは難しいのが現状。著者の「日本には国民の知恵しか資源がない」という言葉、考えさせられますね。
著者は日本の「買い負け」の背後に古い経営スタイルや商社中心のモデルを指摘。その解決策として、真の価値の提供、迅速な判断、そして人材の流動性向上のための税制改革を提案しています。これらの洞察は、日本企業の新しい時代への適応のヒントとして示されています。
2025年:日本の経済変革の兆しとその背景
日本の産業が「買い負け」の状況にある背景には、過去の成功への固執や古い経営スタイルが大きく影響しています。
しかし、その中でも新しい価値の提供や迅速な意思決定、人材の流動性を高めるための新しい取り組みが必要とされているのは明らかです。
この変革の鍵は、伝統と革新のバランスにあると感じます。
2025年までの2年間で、日本の経済界には変革の兆しが見え始めています。
特に、団塊の世代が新たな高齢者のフェーズに入ることで、その価値観や考え方の変化が日本のビジネス環境の進化に影響を与えています。
昭和の古い価値観からの脱却という変化の兆しは確実に近づいており、私たちはこの変化を前向きに捉え、新しい時代の到来に備えるべきです。あと少しの辛抱と努力で、新しい変革の時代を迎えることができるでしょう。